多様性を力に変える人々を紹介するシリーズ
ノーブルホームの多様性ある人々をご紹介する連載【多様性をチカラに】。今回、対外企画として取材させていただいたのは、長野県伊那市のクリーニング会社「芳洗舎」の3代目であり、「洗濯王子」の愛称でテレビ・雑誌など各種メディアでも活躍されている、洗濯家 中村祐一さん。前編では今の仕事を選んだ経緯や、「洗濯から、セカイを変える」という信念について伺いました。
洗濯という側面からより良い暮らしや社会を提案している中村さんの姿を、ノーブルホームのミッション「暮らしをひらく」という観点から紐解いていきます。
洗濯家 中村祐一さんのホームページはこちら
SENTAKU-YUICHI.COM – 洗濯から「セカイ」を変えるー
実家のクリーニング屋を継ぎ、洗濯王子の道へ
今の仕事をやろうと思ったきっかけは、実家がクリーニング店を営んでいたこと。元々すごくクリーニングに興味があったというよりは、一番身近な仕事がクリーニングだったというのが理由としては大きいです。
当時のクリーニング業界はかなり右肩下がりで、実家のクリーニング点の経営も厳しい状態。祖父が創業した家業を残したいという気持ちや、腰を悪くして大変そうな父の力になりたいという想いもありました。
実家を継ぐ前に、よく僕のような跡取りを受け入れている東京のクリーニング店で3年半の修行を積みました。このとき実家を継ぐという覚悟はありましたが、正直なところ、洗濯すること自体に元から特別な思い入れがあったわけではありません。しかし、実際にクリーニングの仕事をやってみたら、「キレイになる」という工程がすごく楽しかったです。逆にキレイにならないときに、どうにかならないかと試行錯誤するのも面白くて、休日に他のクリーニング店へ行って見学や勉強をさせてもらうほどでした。
その後、実家を継ぎましたが、あいかわらず経営の厳しい状態が続いていたので、「宣伝になれば」と思って書籍の洗濯ページの監修の仕事をしたのがテレビに出演するようになったきっかけです。最初はそんな自己中心的な動機で始めたのですが、始めてみると洗濯で困っている人が沢山いることに気が付きました。誰もが普通に出来ていると思いがちですが、洗濯のプロから見ると、家庭の洗濯は結構おかしいと思うところがあります。料理の先生や片付けの先生がいるように、洗濯の先生がいてもいいんじゃないかと思い、洗濯についてテレビや書籍でレクチャーするようになりました。
自分のあり方が変わると、洗濯も変わる
洗濯に関する相談を受けるようになって、よく聞くのは「嫌なニオイがする」「色がおかしくなる」といった悩みです。これに対して僕はいつも「まずは三つの量(衣類・水・洗剤)と、すすぎを見直してください」とお伝えしています。よく「洗濯機と洗剤はどれがいいですか?」と聞かれるのですが、実は洗濯機や洗剤はどれを選んでも大差はありません。
衣類を入れすぎていないか、節水をしすぎて水の量が足りていないのではないか、洗剤の量を適当に入れてしまっていないか、十分な回数のすすぎができているか……。この基本的な部分が抜けてしまっていることでうまくいかず苦労しているという人がとても多いのです。たっぷりの水で何度もすすぐと水道代が上がると気にされる方もいますが、基本に忠実に洗えば1週間分の洗濯物をまとめて洗ってもキレイになるので、むしろ洗濯の回数が減ることも。柔軟剤や漂白剤の使用量が減ってコストが下がる方も多いです。
実はうまく洗濯するために大切なのは、正しいやり方を知り、きちんと実践すること。「何を使うか?」よりも「自分がどう使うか?」が重要です。洗濯機や洗剤をいくら変えても結果はほとんど変わりませんが、「やってみよう」と姿勢が変われば結果が大きく変わってきます。
細かな“やり方”よりも、重要なのは自分の“あり方”。これは洗濯だけでなく、料理や家を建てるときなど、生活を営むうえですべてに共通することなのではないでしょうか。
洗濯から、セカイを変える
僕が掲げている信念は「洗濯から、セカイを変える」。あえて“日本”ではなく“世界”という大きなワードを選んでいます。また“セカイ”とカタカナで表現しているのにも理由があって、日本や世界という地理的なものだけでなく、自分を取り巻くもの全部というかなり広い意味を込めているからです。
例えば、正しい洗濯の仕方に変えると、毎シーズン捨てていたTシャツが3年や5年、10年と長く着られるようになることも珍しくありません。すると「今までは安い服を買っていたけれど、もう少し品質の良いものにしよう」と服の買い方が変わることも。最近は服が“消耗品”として扱われることが多いのですが、洗って長く使えればむしろ“財産”になります。洗って長く使えばゴミの量も減るので、SDGsやサステナブルの観点から考えても意義深いはずです。
洗濯から暮らしを見つめ直すことで、そこに紐づく生活もすべて変わってくる。そういう人が増えていけば、かなり広い意味での“セカイ”も変わってくるのではないでしょうか。
洗濯を暮らしの一部として、意識の中へ
僕は「洗濯」という行為自体が大好き。そのため自宅を建設するときも、主役として「洗濯のアトリエ」を空間に取り入れてみました。好きなことを中心にした住まいには大きな価値があって、毎日の暮らしが特別なものになることを実感しています。これから家を建てる方には、ぜひ自分の好きなことを思う存分取り入れることをおすすめしたいです。
最近は住まいにランドリールームを希望される方も増えましたが、それまでは暗い隅っこで行うものというイメージがあったのではないでしょうか。能登半島地震で洗濯ボランティア活動を展開したときにも感じましたが、食料や服は届けられ、住むところやお風呂も用意されるのに、なぜか洗濯は皆さんの意識の外にあるのです。洗濯というのは持続可能な生活に、絶対に欠かすことはできないはずなのに、衣食住の中では隅に追いやられがちなことを痛感しました。
洗濯という行為自体を愛する僕自身は何かと洗濯を中心に考えてしまいますが、多くの人は洗濯を暮らしの中心にする必要はありません。でも、洗濯の真の目的は「服を快適に着られるようにすること」にあると思っています。洗濯のやり方次第で見た目や着心地が変わることはもちろん、服が長持ちしたり、質の高い服を選べるようになったりすることも多く、暮らしに大きな影響を与えるので、ぜひ生活に欠かせない重要な要素の一部として洗濯にも注目してほしいです。好きな服をどんどん買うだけではなく、シーンに合わせた服を選び、洗濯やクリーニングなどのお手入れも含めて、衣生活を考えることが、もっと日常を豊かにするはずです。洗濯から暮らしを見つめ直す方が1人2人と増えていけば、社会全体へと波及し、セカイが変わっていくと信じています。
次回、後編では中村氏の洗濯アトリエを見せていただきながら、洗濯という観点からの家づくりや暮らしの楽しみ方について伺います。
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